「卵殻モザイク」というアートを知っていますか? それはその名の通り、卵の殻を用いたモザイク画であり、絵画として鑑賞をするだけでなく、工芸として様々な素材に装着して日常的に親しむことができるものです。特徴は、非常に繊細なモザイクアートであること。この“新工芸”とも呼ばれる卵殻モザイクを広く伝えるために活動する日本でたった一人の卵殻モザイクアーティスト・安藤彩子さんは笛吹市在住。会いに行ってきました。
////////////////
卵殻モザイクアーティスト 安藤彩子
愛知県生まれ。名古屋造形芸術短期大学卒業後、祖母であり卵殻モザイクの第一人者・桑原浜子の暮らす笛吹市に移住。後継者として技術を磨き、現在は日本で唯一の卵殻モザイクアーティストとして活動。作品づくりのほか、卵殻モザイクアート普及のため、講師も勤めている。
////////////////
山梨県生まれの芸術「卵殻モザイク」
卵殻モザイクは、卵の殻に水干(すいひ)と呼ばれる日本画の顔料で着色し、それを指で割って形を作り、接着剤で素地に貼り付けて絵を描く芸術。1930年、山梨県で考案されたアートとして知られています。
日本には古くより卵の殻を使った伝統工芸がありました。しかしその技術は非常に専門性が高く、たくさんの人が親しめるというものではなく、作品自体も大変貴重。一方で卵殻モザイクは、自分で卵の殻に色をつけ、専用の接着剤(牛乳のタンパク質を主成分とした「ガゼックス」と呼ばれる物)を用意すれば誰でも制作できる身近なアートといえます。
「卵殻モザイクを始めることはわたしにとって、とても自然なことでした。作品が家中にありましたからね。それで幼い頃から祖母のとなりで、自然に制作をするようになっていました。きっと絵を描くことと同じような認識だったのだと思います」
と、卵殻モザイクとの出会いを教えてくれる安藤彩子さん。深く惹かれていくきっかけは、『喜んでもらえたことかな?』と振り返ります。
「幼稚園のときに先生にプレゼントしたら、先生がとても喜んでくれたんです。それでわたしも『こんなにも喜んでもらえるんだ』と嬉しくなったことを覚えています。今思えば、それが卵殻モザイクアーティストとなる原体験かもしれません」
技術を学ぶために、笛吹市に移住。卵殻モザイクの魅力とは
その後も中学の時には夏休みの宿題の作品として卵殻モザイクに取り組んだほか、大学では日本画学科を選択。「大人になったら自分も卵殻モザイクをやるものだと思っていたんですよね」と安藤さんは笑う。
「わたしの姉妹や従姉妹達も、みんな祖母と一緒に一度は制作をしたことがあったんです。けれど、思えば家に素材を持ち帰ってまでやるのはわたし一人でした。学校卒業後は『おばあちゃんともっと制作をしたい』という思いから地元を離れ、笛吹市に移住してきました」
安藤さんの祖母・桑原浜子さんは、20歳で卵殻モザイクに出会い、その後95歳でなくなるまで70年以上の間創意工夫を重ねながら創作を続けた卵殻モザイクの第一人者。
「おばあちゃんは考案者である矢崎先生(矢崎好幸氏)に直接指導を受けた人。戦後、卵も道具もない時代もあったと聞きますが、先生に任されたという思いでとにかく一生懸命だったんだと思います。祖母は美しい自然や風景を描くのがとても上手な人でした」
「卵殻モザイクは祖母の人生そのものでした」と続ける安藤さん。自分の作品と彼女の作品を比べては、「積み重ねていくしかない」と向上心を強くしているのだそうです。
日本人女性ならではの器用さと感性を生かせる芸術
もともと「モザイク画」はヨーロッパ生まれの芸術。山梨発祥の「卵殻モザイク」は仕上がりの色彩も作業工程も、その繊細さに特徴があります。
「卵の殻は孵化したあとのものを譲っていただくなどしています。孵化したあとの卵は、中の膜がきれいに剥がれており、しっかりと接着させることができます。モザイクは“卵まかせ”なところもあるんです。偶然亀裂が入ることによって、作品の表情が変わるんです」
まずは描きたいテーマを決めて、卵の殻に着色。絵の具が乾いたら色止めにニスを塗ります。素地に下絵を描いて着色した卵殻を指でパキパキと割って下絵に合わせて貼り付けます。
「おおよそ10㎝四方の空間に卵2、3個を使います。作品には手間がかかりますが、手間がかかるほど愛着がわくんですよね。やればやるほど、出来上がっていく様子を見るのが嬉しくて手を動かしています。本当に繊細だからこそ、絵画のようにも描くことができる。発想も、作業も、日本人の感性に合ったアートだと思います」
笛吹市の新工芸「卵殻モザイク」のこれから
幼い頃から卵殻モザイクに触れ、現在は日本で唯一の卵殻モザイクアーティストとして作品作りを続ける安藤さん。
「卵の殻の成分ってカルシウムが99%大理石と同じなんですよ。貼り付けた時に独特の存在感と魅力があります。
工芸として器や箱などに装着することもできるので、素材を活かし、より良い作品を作りたいと思っています。」
安藤さんの作品はクラフト品を扱うお店で手に取ることができるほか、描いてほしいものをオーダーし、仕上げてもらうこともできます。また、実際に卵殻モザイク制作を体験できる教室も開催中。
卵の殻と日本の色彩。精巧で優しく、美しい笛吹市生まれの卵殻モザイク。今後の展開を楽しみにしたい新工芸です。
■
\安藤さんに会いに行ってみよう!/
名称: 卵殻モザイク研究所
住所: 笛吹市境川町藤垈166
電話番号: 055‐266‐2157
営業時間: 13:00~16:00
定休日: 水曜日
Comments